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岡山地方裁判所津山支部 昭和25年(ヨ)53号 判決

選定申請人 内田茂夫 外二名

被申請人 苫田郡加茂町

一、主  文

申請人の申請を却下する。

訴訟費用は申請人等の連帶負担とする。

二、事  実

申請人は、被申請人は別紙物件表記載の物件につき賣買讓渡抵当権賃借権の設定その他一切の処分行爲をしてはならないとの趣旨の裁判を求め、その申請原因として次の通り陳述した。

一、被申請人苫田郡加茂町内の元加茂町は大正十三年六月二十八日岡山縣指令第四六号に依り加茂村を加茂町と更正せられたものであり、被申請人たる現在の苫田郡加茂町は昭和十七年五月二十一日岡山縣告示第八一一号に依り同年同月二十七日から苫田郡加茂町(元加茂町)、東加茂村、西加茂村を廃し、其の区域に新たに岡山縣苫田郡加茂町が設置せられたものであるが、更に昭和二十四年三月十八日に至り地方自治法附則(昭和二十三年法律第百七十九号)第二條に基く選挙民の投票に依り前記元加茂町区域は現在の加茂町より分離して從前の区域の通りに新町の設置を爲すことに決し、越えて昭和二十五年三月十三日岡山縣知事は岡山縣議会に対し議第一一八号として苫田郡加茂町の内旧加茂町の区域を分けて新加茂町を設置し、昭和二十五年四月一日から施行する旨の議案を提出し、その議決を求めたところ、縣議会は同年八月三十日の本会議に於て会議の結果施行月日を昭和二十六年一月一日と修正して可決、茲に町の分立は確定した。仍て分立すべき新町区域の住民である選定申請人三名外訴訟当事者選定書に連署の三十三名の者は新町区域各部落の住民分離派の大多数より推されて臨時の委員となり、新町設置準備委員会を作り町の分立施行に遺憾なきよう諸準備を爲し、受入態勢を整えつゝある者である。

二、これより先前記の如く加茂町分立は投票によつて決せられたのであるが、町民中に分離賛成と反対の二派を生じ、分離反対派は縣当局及び縣議会その他関係方面に対し分離を阻止すべき猛烈なる運動をして分離派と抗爭して來たが、前記の如く本年八月三十日の縣議会において多数の議決を以て町分立が可決確定し、分離反対の目的が達成せられなかつた所から種々劃策を弄し、町議会議員の大多数が反対派(議員二十二名中反対派二十名)なるを頼み、教育文化施設充実の美名の下に分離する旧加茂町に属する財産を急速に処分して分離施行の曉分立した新町に帰属すべき財産を皆無の状態に爲さんことを企て、既に本年九月二十五日の町議会に追加予算六百五十一万円を計上上程し之が財源として、

(一)(1)、加茂町大字黒木字大鯖七七三番地

八林班つ、ね、な、ら、む小班 山林一九町九畝歩(実測面積)

(2)、同所大字同字同七七三番地

九林班へ小班 山林一〇町四反二十歩(実測面積)

(3)、同所大字宇野字狼谷五九七番地

七林班る、を、わ、か小班 山林二五町九反六畝十歩(実測面積)

(4)、同所大字同字坪谷五九五番地

七林班り小班 山林一一町一反八畝十五歩(実測面積)

の山林及び立木の賣却処分を決議し、被申請人は同年十月十八日之を競賣に附すべき旨同月七日公告第七号を以て公告し將に之が処分を爲さんとしているが、右山林六十六町六反四畝十五歩中旧加茂町地内の分は前記(2)の分を除く五十六町二反三畝二十五歩の大部分であり、分離後残存する加茂町地内のものは僅かに(2)の十町四反二十歩に過ぎないのである。

(二)更に同年十月二日の町議会において

(1)、加茂町大字倉見字源六谷一、〇〇二の一番地

一八林班は、ほ、ち、り、ぬ小班 山林四〇町五反九畝歩

(2)、同所大字同字燒井一、〇〇一の一番地

一八林班へ小班 山林五町一反三畝十五歩

(3)、同所大字同字猫原九九六番地

一八林班と小班 山林四町五畝一〇歩

(4)、同所大字同字一の渡下モ一、〇二四番地

一八林班る、を小班 山林一六町六反五畝歩

(5)、同所大字同字源六谷一、〇二三番地

一八林班か小班 山林六町八反六畝一五歩

(6)、同所大字黒木字桑谷六五五の一番地

一九林班へ小班 山林一二町六反一畝歩

(7)、同所大字同字同六五五番地

九林班に小班 山林八町一反歩

(8)、同所大字倉見字白川一八八の四七番地

一五林班い小班 山林一一町八反六畝一五歩

(9)、同所大字同字火ヲノ六四七番地

一五林班ろ、は、ほ小班 山林四八町九反九畝二五歩

(10)、同所大字原口字割石一、〇九九番地

二林班わ小班 山林三町六反六畝二〇歩

(11)、上加茂村大字知和字舟山二二二番地

二三林班い小班 山林一〇町七反八畝歩

(12)、同所大字同字二二一番地

二三林班ろ小班 山林五町四畝歩

(13)、同所大字青柳字カバガ谷一、二三一の五 一、二三三 一、二三二番地

二三林班は、に小班 山林四町五反二〇歩

(14)、同所大字青柳字カバガ谷一、二三一の三番地

二三林班ほ小班 山林一〇町五反五畝歩

(15)、同所大字同字同一、二三一の四番地

二三林班へ小班 山林一五町八反五畝歩

(16)、同所大字同字寺々山

二一林班た、れ小班 山林一二町六反九畝歩

(以上孰れも実測面積)

の土地及び立木の賣却決議を爲し、実地踏査の上近日公賣処分に付せんと企てゝいる。而して右山林面積二百十七町九反五畝歩の内(7)の分八町一反のみは旧東加茂村地区内の山林であるが、その他の山林は全部分離すべき旧加茂町地内のものであり、予算額に達する迄逐次競賣処分を企てつゝあるので、斯くして旧加茂町に帰属すべき財産の大部分は急速に処分し盡さるゝ危險に瀕している次第である。

三、然るに分離反対派の主張している右財産処分の理由とするところは、教育文化施設の充実を爲すためと謂うにあるけれども、

(イ)  教育施設の充実の点については新学制々度に則り、曩に加茂町が二校案を採用した際二校案とすれば昭和二十八年度迄は経費不要であることを理由としたものであり、今更差し迫つて之が設備の充実修理等を施す必要は更に存しないものである。

(ロ)  文化施設という公民館の建設についても現在各部落には夫々公民館と称するものが存している許りでなく、今や近く旧加茂町が分離しようとしている際に当つて旧加茂町旧東西加茂村区域を通じての共同の公民館を新たに建設する必要はないものである。分町が確定した上は分町により分離すべき旧加茂町に返還すべき財産は、町当局において出來得る限り之を現状の儘に存置しておいて返還を爲すべき筋合である。然るに反対派が教育文化施設充実の美名の下に、之等不急不要の事業に敢て莫大の費用を投ぜんとするのは旧加茂町をして分離を飜意せしめる爲、又は旧加茂町の分離を見越して分離に対する報復手段として分離後旧加茂町に帰属すべき財産を処分してその減少を計り、残置さるゝ区域の加茂町をして少しにても太らせんとの公正を欠く不当の意図に基く処置であることは新聞紙も傳える所であり、分町を前に信義を無視した強暴の処置であつて常識上からも許さるべきではない。

四、更にこれを法律上の見地から檢討するに地方自治法第七條第三項は市町村の廃置分合又は境界変更の場合において財産処分を必要とする時は、関係市町村が協議してこれを定める旨規定しているが、この規定の精神に照して見ても分町が定められた後には財産処分は近く分離すべき市町村と協議して定めることを要するのであつて、分離前の市町村において自由にこれを処分することが出來ないものと解するを相当とする。

このことは昭和二十三年法律第百七十九号地方自治法附則第二條によつて市町村の区域の変更のある場合に於て爲す財産処分についても同様に解すべきものと思料する。

而も本件における財産処分の理由とする教育文化施設の充実は前記申請原因第三項において記述した如く不急不要のもので、分町前早急にこれが処置をせねばならない切実なる必要性の存しないものであるから、斯かる場合において本件の如き処分は一層強く許されないものと解すべきであつて全く違法なものである。

仮に法律上分町を目前に控えた際にも尚且現在の町において分離の曉は分離町に返還すべき財産を自由に処分し得るものとしても前二項に述べた如く、不急不要な事業を殊更取上げて数をたのんで議決を強行し、以て分離すべき町への帰属財産を減損せしめんとするが如きは対立意識の下に分町の意思を挫かんとの意図か又は故意に分離する町の財産を皆無ならしめ、分町後の財政の立行かぬように爲さんとの意図によつて爲さるゝものであり、権利を著しく不当に使用するものであつて、これ明かに権利の濫用であり無効である。即ち本件財産処分の決議は亦無効であつて、その無効の決議に基き被申請人の町長が十月七日に爲した公告第七号による公有林野土地立木競賣公告も亦無効であると信ずる。然らば被申請人は本件物件を処分する権限は無いものと謂わざるを得ない。

五、然しながら前記の如く、九月二十五日の町議会において旧加茂町地内の山林五十六町余の土地立木を含む六十六町余の土地立木の賣却処分を決議し、被申請人町長は十月七日之が競賣の公告を爲し、又十月二日の町議会においては九月二十五日の決議に引続き旧加茂町地内の山林二百九町八反余を含む二百十七町九反余の土地立木の賣却処分を決議し、近く之が競賣処分に出でんとしている現状である。

仍て申請人等は近く分離すべき町の区域の住民全部(別紙住民目録)が分町によつて新町に帰属すべき財産によつて享くる共同利益擁護の爲該帰属財産を保存するため被申請人が本件山林及び立木の処分を爲す権利の存在しないことの確認を求める本案訴訟提起の準備中であるところ、前記の如く被申請人の爲さんとする処分は目前に迫つており、殊にその一部は本月十八日に競賣に附せらるゝことになつているので急速にこれが処分の禁止命令を得るのでなければ回復することの出來ない不測の損害を蒙るので本申立に及ぶ次第であると述べ、更に被申請人の本案前の答弁に対する抗弁として次の通り陳述した。

一、申請人等は分町の曉は新加茂町の住民として公法上の権利を有する反面、又私法上においても新加茂町に帰属すべき本件物件(財産)より利益を享有するものであり、その財産上の利益は期待権であるが分町が告示のみを残して確定せる現在においては、その権利は既に成立せるものと謂うべきであるから、仮処分請求権は存在するものである。

本件は本件物権の保存行爲であるから申請人等及び申請人等を選定したる者等の新町設立準備委員は各自本訴及び本申請を爲す権能を有するものであるが、これ等は共同利益を有する多数者であるから選定当事者の形を採つたものである。

二、本件に関する本案訴訟は被申請人等において分離前に財産処分権が存在しないと言う権利不存在確認の訴であり、本件は行政事件訴訟特例法に依るべきものでないことは洵に明かである。又本件は一事不再理の原則の適用を受けるべきものでないことも亦明かであると述べた。(立証省略)

被申請人は主文同趣旨の裁判を求め、本案前の答弁として次の通り陳述した(被申請人陳述の本案の答弁についてはこれを省略する)。

一、申請人等は本件申請につき当事者適格を有しない。即ち

(イ)  地方自治法施行令第一條は新たに普通地方公共団体の設置があつた場合における職務執行者を定めている。本件の場合は同施行令第一條第三項に該当し、新加茂町の町長が選挙されるまでの間は現加茂町長木本利道がその職務権限を行うのである。普通地方公共団体の長の職務権限は地方自治法第百四十七條以下に定めるところであつて、当該普通地方公共団体を統轄し代表し財産を管理し事務を執行する等極めて廣範囲に亘り、財産の管理保存処分等は條例の定むるところに從い町議会の議決を経て又は自由にこれを爲し得るのである。從つて新加茂町が地方自治法(昭和二十三年法律第百七十九号)附則第二條第一項の区域変更に伴い処分した財産であつて、現に存する限度において返還を受け得る財産についても亦現加茂町長が管理保存その他の職務権限を掌握しているのであつて、住民はこれを有するものではない。住民は單に使用する権利を有するにすぎないのであつて、その住民が使用利用する権利ありとの理由若くはその住民の属する区域に返還されるべき財産であるとの理由によつて、本申請の権能が住民個人に対して生ずる謂れはないのである。住民の権利義務は地方自治法第十條第二項に定めるところであつて、財産及び営造物を共用(利用使用の意)し得るに過ぎない。その権能はその属する市町村の所有権に基因し、自らこれを管理処分する権限はないのである。又住民はその属する市町村を代表若くは代理して他の市町村に対し権利を行使することは出來ないこと勿論であるから、本件申請のような他の市町村に対し一定の法律上の保護を求める爭訟を住民自らがなす適格なく、從つて住民により選定された申請人等も亦適格を欠き違法無効のもので却下すべきである。

職務を行使する現加茂町長が自らなすか、これが委任に基き権限を有する者にしてなし得るにすぎない。

(ロ)  申請人等は民事訴訟法第四十七條に定める選定当事者としての適格を前提とするもののようであるが、(1)民事訴訟法上選定当事者は訴訟の目的(本件においては本件山林の所有権)の帰属主体の意思に基き当事者適格をもつ者(訴訟実施権を付與せられた者)である。然るに前述の通り本件山林はその住民の属する市町村の所有であり、管理権も亦これに属すのみならず、その市町村は住民の集合体とは別個独立の人格を有しており、住民はその所有する財産を單に利用し得る権利あるにすぎないのであつて、市町村の所有権を通じ初めて他の市町村に対しその権能を発揮し得るに過ぎない。直接に他町村に対しその権利を主張し、権利保護を求めることは出來ないのであつて、その属する市町村(訴訟の目的の主体)より訴訟実施権を付與(訴訟信託)せられて初めて実施権を有するに至るにすぎないものであり、本件の場合市町村とその属する住民とは共同訴訟を提起することが出來ず、両者は未だ同一の事実上法律上の原因に基き相手方に対し一団として対立している関係になく、單に経済上利害関係を同じうするのみであつて、共同の利益関係にあるとは謂い得ず、民事訴訟法第四十七條所定の要件を具備すると謂い得ないから單に住民多数より選定されたとの理由のみでは、未だ訴訟実施権を有するに至らない。(2)仮に前述が理由なしとしても申請人等は旧加茂町住民全体の意思に基き、訴訟実施権を付與せられた者ではなく、所謂分町賛成派の多数決で選ばれたにすぎない。(申請人は申請書中においても被申請人の釈問に対しても自白している)旧加茂町地区住民にも分町反対派に属するもの多数あり、これ等は申請人選定の意思決定の機会は與えられず全然除外されているのである。又所謂分町賛成派に属する者にして自ら当事者となるか申請人等に訴訟実施権を付與するか意思決定をなさない者が多数あり、申請人等は全く共同利益団の多数決で選ばれたにすぎないものである。申請書添付の住民一覧表は申請人等が配給台帳を基としこれを写しとつたものにすぎず、右住民が申請人等選定につき自ら意思決定したものではないのである。(3)更に申請代理人は本申請人は地方自治法第十條第二項に定むる住民の財産共用権の行使であり、保存行爲であるから元來選定当事者をまつまでもなく、住民各自独立して爭訟遂行が出來るが、選定当事者の形式によつたものであると謂うのであるが、市町村の財産は国有財産法の種別に做い公用財産公共用財産收益財産に分別し、收益財産についてはこれを基本財産として維持出來るのであるが、地方自治法第十條第二項所定の住民の共用(使用する権利)し得る財産は右の内公共用財産のみに限定されているのであつて、公用財産收益財産(基本財産)は包含されない(金丸三郎著地方法精義上卷八八頁御参照)本件山林はその全部が收益財産であると共に基本財産であり、管理処分については條例で之を定め町議会の議決を経てなし得るのである。住民は共用権を有するものでない。從つて其保存行爲も條例の定めるところに從い、町議会の議決を経て町長において実施するものであつて、住民の爲し得るところではないのみならず、右共用権はその属する市町村との内部関係であつて外部即ち他市町村に対し右共用権に基き、其権利に基く請求権を行使することは出來ないものである。

二、本件は地方自治法(昭和二十三年法律第百七十九号)附則第二條により旧加茂町が区域変更に伴い処分した財産で現存するため新加茂町設置に当り、現存の限度に於て返還請求権あることに法的根拠を求めているもののようであるが、現加茂町長が條例に從い町議会の議決を経て処分せんとする基本財産処分の禁止を求めるものであるから、明かに行政廳の処分行爲を訴訟物としこれを禁止するものであるから行政事件訴訟特例法第十條に基き具体的処分のなされるをまつて、その執行停止を求めるべきであり、民事訴訟法第七百五十五條に依り具体的処分行爲顕現前に包括的に禁止し得べきものではない。依て岡山地方裁判所の專属管轄に属し御廳には管轄権が存しないのみならず、行政事件訴訟特例法第十條第七項に依り違法なる申請として却下すべきである。

三、申請人等は既にその管轄廳である岡山地方裁判所に本件山林の一部のものにつき行政事件訴訟特例法第二條による訴を提起しているに不拘、重ねて同一山林につき本申請に及んでいるのであつて、明かに一事不再理の原則に反し違法たるを免れないものである。

右の理由に依り本申請は違法であつて、却下すべきものである。(立証省略)

三、理  由

先づ本件の管轄につき審按するに、被申請人は本件仮処分事件は所謂行政事件であるから岡山地方裁判所の專属管轄に属し、当裁判所の管轄に属しないと抗弁するが、申請人の弁論の趣旨によると本件に関する本案訴訟は被申請人等において加茂町の分離前に本件の財産処分権限が存在しないと言う権利不存在確認の訴であることが認められ、本件仮処分申請事件は該本案訴訟に先立ち、右処分権限の存在しないものゝ爲したる決議が無効であることを理由として、之が保全のために爲されたものであるから本件は行政事件訴訟特例法第一條記載の行政廳の違法なる処分の取消又は変更に係る訴訟に該当しないから、当然当裁判所の管轄に属するものと謂うべく、從つて本抗弁はその理由がない。

次に被申請人は申請人等は既にその管轄廳である岡山地方裁判所に本件山林の一部のものにつき、前同法第二條による訴を提起しているのに重ねて同一山林につき本件申請に及んだことは明かに一事不再理の原則に反し違法であると抗弁するが、本件仮処分の本案訴訟は前記に説明した通りであるから、仮令本件申請に係る山林中の一部に岡山地方裁判所に提出した山林を含んでいるとしても、本件申請は右訴訟とは訴訟の客体を異にするものであるから、重ねて当裁判所に訴訟を提起することを何等妨ぐるものではない。

仍つて進んで申請人等に本件仮処分申請につき、之が基本たる権利があるか否かにつき考えるに、申請人等は分町の曉は新加茂町の住民として公法上の権利を有すると共に、私法上においても新加茂町に帰属すべき本件物件(財産)より利益を享有するものであり、その財産上の利益は期待権であるが、分町が告示のみを残して確定せる現在においては、その権利は既に成立せるものと謂うべきであり、仮処分請求権は存在する。本件は地方自治法第十條第二項に定むる住民の財産共用権の行使であり保存行爲であり、申請人等及び申請人を選定した者等は各自本件及び本申請をなす権能を有するのであるが、これ等は共同利益を有する多数者であるから選定当事者の形を採つたと主張するが、地方自治法第十條第二項に「住民はその属する普通地方公共団体の財産及び営造物を共用する権利を有し」とある規定中、共用とは各住民が他の住民と同様に利用し得ることであり、共用する権利とは財産を利用するそのことに関するものではなく、これを利用するについて各住民が同等の地位を有することを明かにしたものである。從つて財産及び営造物を共用する権利とあるの一事を以て住民に権利を設定したと見るべきものではない。然してその住民の属する普通地方公共団体は本件においてはその財産を住民の利用に供し、住民はたゞその結果としてこれを利用し得るにすぎないものである。加茂町分町の曉は申請人等は新加茂町の住民として新加茂町に帰属すべき本件物件(財産)より経済上の利益を享有し得ることは勿論認められるところであるが、その利益なるものは申請人が主張しているような期待権として認むべき程度のものではなく、單に法律の規定によつてその利益を享有し得ることを許されたものに留まり、その利益そのものは所謂法律の規定による反射的利益であると解するを相当とするから、申請人等及び申請人を選定した者等は各自住民として本件物件につき何等私法上の権利を有しないものと謂わねばならない。從つて右権利の存在を前提とし、その保存行爲として本件申請を爲し得るとの申請人等の主張はこれを認めることが出來ない。

仍て申請人等は本件不動産につき直接之が保護を求める権利なきものと謂わなければならない。

從つて申請人等の本件申請は、この点において認容し難いから、爾余の点につき判断を省略し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 西本仁信 高橋文惠 井上一男)

(別紙、表および目録省略)

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